「ふんっ!ふんっ!ふんっ!ですわ!ですわ!ですわ!」
いつも通り奇妙な掛け声とともに素振りをするアビゲイルにいつもとは違うあることが起きようとしていた。彼女の父親であるアルバードが訪れたのだ。 『アビー、俺自ら稽古を付けてやろう。』 お気持ちは嬉しいのですけれど、今の時点でも技術ではわたくしの方が上ですわ。筋力とかを考慮すれば実力はトントンかもしれませんわね。ですが、娘にかっこいいところ見せることしか考えてない今のお父様に私の模擬戦相手が務まるとは正直思えませんわね。 わたくしは知っていますわよ?私が倒れていた間に溜まった書類仕事がまだ片付いてないせいでそれに追われていることを。そのせいで元々ほとんど確保できていなかった修練時間が最近はゼロであることを。 まぁ、お父様と稽古をするのもルミナリア流の剛剣を見るのも久々ですしいい機会ですわね。この機会にルミナリア流の剛剣の術理の復習と対処の復習をするとしますわ! 「ルミナリア辺境伯家の当主たるお父様と手合わせできるなんて光栄ですわね。その剣技、遠慮なく盗ませていただきますわね!ですのでお父様の全力を、技の全てを見せていただけると嬉しいですわ。」 『フッ、お前も言うようになったではないか!だが、お前は少々自惚れが過ぎるようだ。実践で死ぬ前にその自信、この俺がへし折ってくれるわ!』 わたくしの方こそお父様の慢心を打ち砕いてみせますわ!今の強さに満足していては万が一の時に殺されてしまいますもの。 「わたくしの自信が過ぎたものかどうかはわたくしに勝ってからいってくださいまし!」 『先手は譲ろう。さぁ来い!』 「わたくしを前にしてその余裕、すぐに後悔することになりますわよ。まぁ、譲っていただけるなら遠慮なく行かせていただきますけれっ……ど!」 やっぱりですわ。わたくしの速度に全く反応出来ていませんわね。このままわたくしが攻めていては学ぶまもなく終わってしまいますし、軽く一当てして一度下がって構え直してもらいましょうか。 「足元がお留守ですわよ!」 『な!』 「お父様、今目の前にいるのは剣を振り始めてすぐの幼子でも教え導くべき格下でもありませんわ。舐めてかかっていると、今度こそ一瞬で終わりますわよ。お父様、今度こそ全力を出してくださいますわね?」 そう言ってわたくしは殺気を少し混ぜた威圧をお父様に軽く当てる。この訓練所を使っている騎士たちがいますし余波で影響が出ては申し訳ないですもの。 でも、強力な威圧を放ってくる魔物がいないとも限らないですし訓練がてら今強めの威圧をぶつけるのもありなのではないかしら。辺境伯家の直属騎士の方たちですし、やるとしてもお父様への事前通達をするのが筋ですわね。 それとうっかりやりすぎないように気を付けつつお父様の攻めを丁寧に受けて剛剣の技を盗むしかないですわね。これがまた難しいんですの。お父様の攻撃を受け流したあとに癖で攻撃しそうにかるんですもの。気を抜くとすぐ癖が出ますわね。余計なことを考えているせいでしょうか。 『降参だ。』 あら、もうおしまいですの? 「わたくしの勝ちで、よろしいのですわよね?」 『あぁ、片手間で相手されている自覚はある。悔しいがこれが今の俺の実力ってことか。あの威圧で勝てないだろうことはわかっていたがまさか攻撃を当てることすらできないとはな。当主としても父親としても不甲斐ない限りだ。』 やっぱり勝負を決める上で最も重要な要素は速さですわね。速さに差があれば攻撃を当てることも、躱すことも出来ないですもの。相手より遅ければ勝てない相手から逃げて生き延びることもできませんわ。 速さ。これがないと早死するだけですわね。 「お父様、戦いにおいて彼我の実力差を判断する一番の方法は速さを比べることですわ。それくらい速さは大切ですの。速ければ自分に攻撃は当たらないですし相手にはより多くの攻撃を当てることができますもの。勝負の舞台に上がるためにはまずわたくの攻撃に反応できるようになってもらいませんと。」 『クッ…………アビー、お前はそれだけの力を持ちながらなぜまだ上を目指すのだ。お前は何と戦おうとしている。』 やり直しのことを話すなら今しかないですわね。今を逃せば戯言と一蹴されてしまいかねませんし。 「わたくしが狩ろうとしている相手は……禍神ですわ。」 『ま、禍神……だと!?』 さすがは王国の剣。わたくしもあの戦いの直前の遺跡調査の時に石板に記載されているのを見て初めて存在を知った禍神をそれより遥かに早いこの段階で知っているなんて…「モフモフ〜♪モフモフモッフモフ〜♪わたくし〜のあいぼ〜うはどっこにいる〜♪可愛い可愛いわたくし〜のモフモフさ〜ん♪わたくし〜はここよ〜出ておいで〜♪」【モッフモフ第6番『相棒』-第2楽章 作詞作曲 アビゲイル=ルミナリア 】より そんなこんなで森を散策すること二時間。一向に見つからないモフモフ。性懲りもなく突撃してくる|駄竜《バカ》共。なんなんこいつら!さっさとピーねよ!てかわたくしについてる血で同じバカ共の末路を理解できねぇのか?あぁん?おっと失礼致しました。つい美しくない言葉を使ってしまいましたけれど、普段はこんなんじゃありませわ!本当ですわよ!チッ……全部全部あの駄竜が悪いんですわ!モフモフA『何あの化け物!竜を何体仕留めればあそこまで濃い竜の匂いが付くのさ!逃げなきゃ殺られる!逃げなきゃ殺られる!』モフモフB『あ、やばい僕死んだ。お父さんお母さん、先立つ親不孝者な僕をお許しください。』モフモフC『……………………………………………………………………………………オジャマシマシタ。』 上位の魔物の血は魔物除けの結界に使うとも聞きますし、駄竜の血の影響でしょうか。やっぱりあのバカ共のせいでしたか。あとで根絶やしにしないとですわね。余計な予定を増やすだなんてあの駄竜共サイテーですわ! 「はうっ!あんなところに可愛らしいモフモフさんが!しかもそのモフモフが白銀の毛の狐さんとはわたくしスーパーウルトラグレートデリシャスワンダフルついてますわね!これで勝つるですわ!」"プルプルプルプルッ"「さぁ〜おいで〜怖くないですわよ〜?」"プルプルプルプルッ"『修羅が……修羅がいるよォ……私美味しくないからぁー!私食べても美味しくないから殺さないで〜!』「ほーらわたくし特製の干し肉ですわよ?食べたいでしょう?」"プルプルプルプルッ"『あ、私は今日死ぬんだ。あの方優しいな、今から殺す相手に慈悲として最後の晩餐を用意してくださるなんて……アハハハハハッ!』「ほーらおいでー!」 "プルプルプルプルッ"『イィィィィィィィィヤァァァァァァァァ!!!!』
『あふんっ……』 クソ情けない駄竜の断末魔が聞こえた気がしましたがまぁ気の所為でしょう。もういい時間ですしわたくしもそろそろ帰りましょうかね。駄竜はどうでもいいんですけれど……やはり異世界ファンタジージャンルの小説たるものペット枠の一つや二つ、欲しくありませんこと?欲しいですわよね?欲しいですわよねぇ!(圧) 欲しい……です。 はい、ちゃーんと空気読めて偉いですわね!特別に1アビゲイルポイント差し上げますわ!まぁそんな茶番をさておきまして、モフモフを探していきたいと思います!なんでモフモフ限定なのかって?そんなのわたくしが吸いたいからに決まっているじゃありませんか!モフモフは正義!可愛いは正義!そしてそんなモフモフからしか得られない栄養素がいずれ発見されるのです! さてと、真面目な話をしましょうか。モフモフということは何を意味するかわかりますか?モフモフということは身体で受けきるタイプではないということです。わたくしの戦闘スタイルの関係上、共闘するならスピードタイプか遠距離タイプが望ましいんですの。となると先程の駄竜のように鱗のような硬いものが身体を覆っているタイプの魔物はあまり好ましくありませんの。人に置き換えると金属鎧のようなものですしね。 その点モフモフなら毛皮系の鎧、すなわち近距離なら回避盾や斥候、そして遠距離なら魔術師のような役割を担ってくれますの。これならわたくしのスタイルとも噛み合いますわ。やはりペットと言ってもわたくしと共に生きる以上ただの愛玩動物とはいきませんもの。相棒として共に戦ってもらわないといけない以上わたくしの戦闘スタイルと噛み合うことは必須。 ついでに言えばカラーリングも大切ですわね。上位の魔物は姿を変えられるとも聞きますし、もし人化できるようになった時には銀髪赤目がいいですもの!犬系でも狼系でも猫系でもいいですけれど、銀髪赤目!これだけは絶対に譲れませんわ!
吾輩は竜。神代から続く由緒正しき純血竜の家系の四男坊だ。由緒は正しいのだが先々代から最上位竜を輩出できていないせいで駄竜だなんて言うやつもいる。だからこそ吾輩はひたすら貪欲に強さを求め獲物を狩り続ける。両親や兄弟たちは意地汚いだのみっともないだの純血竜としてのプライドはないのかだのと散々な言われようだ。 だが、本来竜は戦闘種族なのである。かつて多く存在した強者たちとの生存競争に勝ち、生き残ることで最強生物竜の立場を獲得してきた。にも関わらず最近の我が一族の体たらくはなんだ?立場に甘え、戦いを野蛮な行いだと蔑み、惰眠を貪る。 これではその力が衰え、最強生物としての血が劣化していくのは当然のことではないか。なぜそんな単純なことに誰もわかっていない!なぜ誰も試さない!過去の栄光を誇るのはいい。だが、結果だけを見て戦い続けた歴史を見て見ぬふりするのは違うであろうが。 ならこの吾輩が強さを求める竜たちの導となろう。その生涯をもって戦い続ける竜の真価を示そう。◇◇ 「ふんっ、人間のガキではないか。今日は気分がいい。この小さきものには慈悲をやろうではないか。さ、我の咆哮に脅え即刻立ち去るがいい!」 え?無視して突っ込んでくるじゃん!え?全然ビビってない?おえっ!なんか口に入ってきた気持ち悪!おえぇっ!なんだこの毒は!気持ち悪っ!おえぇぇぇっ!だが!おえっ!残念だったな吾輩の身体には耐性があるゆえ毒程度で吾輩は死なn……
「うーん、これなら瞬殺できるんですけど戦闘訓練にはならないんですわよね。最初の咆哮さえ耐えてしまえばそこらの狼の方が戦いずらいとかどうなんですの?だって狼共は一応逃げますし、ただの的でしかない竜よりは多少……。」 あぁ〜解体クソ面倒ですわね。誰か解体要員でも連れて……いや、それは咆哮食らった後にまともに動ける人間がいないから断念したんでしたわね。なんでいつまでたっても耐性が付かないのかしら。正直このままじゃお話になりませんわ。当時は私、お兄様、お父様の三人でもギリギリでしたものね。そこからさらに私が龍との相打ちで一抜けすることになってしまいましたしね。 戦場で覇気に負けて足を止めるなど愚の骨頂ですもの。自分を殺してくださいと言っているようなものだというのに天下のルミナリア辺境伯騎士団の団員ともあろう者が揃いも揃ってこの様とは……。◇◇ ここでその覇気を浴びた被害者さんたちの声を聞いてみましょう!被害者A「なんなんですかあの覇気!およそ人が出して良いレベルを超えてますって!お嬢様の前でなければ失禁してました。安心してくださいね?自分は耐えきりましたので!」被害者B「竜の咆哮の方がまだマシ。以上!」ノンデリ被害者C「なんだあの化け物はよぉ!思わず足が止まって腰が抜けちまったじゃねぇか!にしてもあれがうちの大将になるたぁそれまで長生きしねぇとな。」 現場からは以上です。 ◇◇ わたくしは単騎で勝てなどとは言っていませんのに。その場に立つ資格を得なさい。彼らに求めたのはそれだけだというのに!目の届く範囲なら守りきれますけれど、これじゃ咆哮で足が止まって解体もまともに出来ないばかりかその後連れて歩くこともできませんものね。欲を言えば料理人も…… ダメですわね!何をそんな貴族の令嬢のような甘ったれたことを言っておりますの!貴族令嬢、それも上位貴族の辺境伯の令嬢なのを忘れている訳ではありませんわよ?それはそれ、これはこれですもの。まぁそれはさておき、一度気を引き締め直さねばなりませんわね!わたくしは我が国の剣、そのような甘えは許させませんわ!とはいえ現実問題として美味しく食べるための調理法の研究は必須ですわよね。 戦力の底上げのために一番手っ取り早いのが魔食ですし。となると美味しく食べれる状態にしてこっそり食事に混ぜて後に引けなくして……ふふふっ一蓮托
「勉強クソだりぃですわ!というわけで今日は気分転換にブタ共をシバキにいきますの!」 誰に言ってんだこのエセお嬢様の皮を被ったガチお嬢様は……。それはそうと彼女がブタ呼んだ魔物の正式名称は魔豚人(オーク)。小鬼(ゴブリン)と同様に極めて原始的な種であり、それ故に進化や変異の幅が広い。小鬼と違い、通常種と上位種で見た目に変化がほとんどない。そのため冒険者になりたての者が誤って攻撃してしまい殺されるという事故がよく起きる。 「あんなもんただの二足歩行する豚ですものね。狩って食べるなら少しでもマシな方がいいですもの。」 そんなことを言いながら首を狩っては内臓を引きずり出して吊りしてを繰り返していく。表情を一切変えずに。やーいやーい!自称か弱い女の子ー!どこがじゃーい!「チッ……この刃が届かぬところからふざけたことを。いずれわたくしも貴方の首を貰いにそこまで言ってさしあげますからね。首を洗って待っていてくださいね。貴方を喰らえばどこまで強くなれるのかしらね。」 ッ!?ま、まぁ所詮は定命の者の戯言。しかも言ったのは定命の者の中でも脆弱な人種。そんなソナタらの刃が我らに届くことはない、ない……はず。多分大丈夫。 「あれは豚、あれは豚ですわ。」 わ、我は豚ではない!我神ぞ!偉いんだぞ!強いんだぞ!「いや、豚って言ったのはあんたの事じゃねぇよ。とりあえずこんなものかしら。ついでに竜でも狩っていこうかしらね。飛竜の幼体が街道の方まで飛んできてちょっかいを出していると聞きますし……。どうせ倒さなければいけないなら一人の時に倒してついでに味見までするとしましょうか。」 竜は縄張りを持つ種族だ。故に基本竜は単独で行動している。そんなプライドが高いが故に舐めプをしてくる竜はある一定以上の強さを持つものからすれば格好の獲物だ。バカで傲慢で目立ちたがり屋な性格故に無駄に吼えるし、魔力もダダ漏れで探すのも楽で相手の力量も見極められないから逃げもしない。 ほんとにこんなのが好きだとは貴族というのはおかしな連中だ。骨格標本にして売ると白金貨数枚はくだらないらしいけど……阿呆の骨なんて飾ってなんになるんだか。まぁ売れるなら売るけども。 えぇ〜っとですね。竜の狩り方講座の方を始めていきたいと思います!奴らは接敵と同時におらかかってこいや!と言わんばかりの咆哮で相手を威圧してきます
あ、これ多分深く考えちゃダメなやつですわね。タイムパラドックスとか緩やかに元の時間軸に合流して結局龍に負けて死ぬ未来変えられない可能性とかそんなことを考えてたらわたくしのアイデンティティ崩壊まで秒読みですしね。 わたくし、SAN値チェック失敗して発狂だなんてごめんですもの!きっと神的な上位存在が起こした矛盾をはらんだ超常現象的ですわね。可能性の話は一旦脇に置いて気分転換がえてら今後のことを考えましょうかね。わたくしはこのままいけば学園に通うことになりますわね。 回避できないこともないですけれど……土地と民を見捨てて攻めるならともかく守りながら戦うとなると戦闘員の数が少々心もとないんですのよね。広い土地を守るには数必要ですし、見せかけだけだとしても数がいれば民を安心させるのにも有用ですもの。やはり平民貴族問わず人材を育てて同時に引き抜きをするのが無難ですわね。 とはいえ今後のことを考えると勧誘の過程で他家と揉めるわけにもいけないのがまた厄介ですわね。穏便にとなると慎重に事を進めなければいけないのがストレスですわね。時間があまりないというのに……クッソめんどくせぇですわ!サクッと武力制圧したいところですけれど、そんな些事にリソースを割けるほど時間的に余裕がないのがネックですわね。「よし、柄ではないですけれど優等生キャラを演じて片っ端から恩を売りまくってやりますわ!」 学園入学時にはおそらく前回の全盛期には達しているでしょうし、武闘派貴族の学園での師匠ポジに収まりたいところですわね。脳筋共は基本馬鹿ですけれど恩にはしっかり報いてくれますし安心ですわね、馬鹿ですけれど。すっごい馬鹿ですけれど。 そういえばあの馬鹿共、意外とモテるらしいですわね。普段の緩いのに戦闘になると表情をキリッとさせてクレバーに戦うギャップがいいらしいですわ。わたくしも……モテたかったですわね。わたくしとあのおバカさん達は何が違うのかしら。 今回は優等生キャラを演じる予定ですし、前回一ミリも異性からモテなかったわたくしにも好意を向けてくれる殿方の一人や二人くらい……。絶対に婚約者を捕まえてあのノンデリ団長に全力でドヤ顔で煽り倒してなりますわ! 悔しがるノンデリの顔が目に浮かび……浮か……あのノンデリどんな顔だったかしら。困りましたわ!記憶にモヤがかかったように思い出せませんの。こんな