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#4 お父様とO・HA・NA・SHIですわ!

last update Last Updated: 2025-06-30 21:21:11

「ふんっ!ふんっ!ふんっ!ですわ!ですわ!ですわ!」

 いつも通り奇妙な掛け声とともに素振りをするアビゲイルにいつもとは違うあることが起きようとしていた。彼女の父親であるアルバードが訪れたのだ。

『アビー、俺自ら稽古を付けてやろう。』

 お気持ちは嬉しいのですけれど、今の時点でも技術ではわたくしの方が上ですわ。筋力とかを考慮すれば実力はトントンかもしれませんわね。ですが、娘にかっこいいところ見せることしか考えてない今のお父様に私の模擬戦相手が務まるとは正直思えませんわね。

 わたくしは知っていますわよ?私が倒れていた間に溜まった書類仕事がまだ片付いてないせいでそれに追われていることを。そのせいで元々ほとんど確保できていなかった修練時間が最近はゼロであることを。

 まぁ、お父様と稽古をするのもルミナリア流の剛剣を見るのも久々ですしいい機会ですわね。この機会にルミナリア流の剛剣の術理の復習と対処の復習をするとしますわ!

「ルミナリア侯爵家の当主たるお父様と手合わせできるなんて光栄ですわね。その剣技、遠慮なく盗ませていただきますわね!ですのでお父様の全力を、技の全てを見せていただけると嬉しいですわ。」

『フッ、お前も言うようになったではないか!だが、お前は少々自惚れが過ぎるようだ。実践で死ぬ前にその自信、この俺がへし折ってくれるわ!』

 わたくしの方こそお父様の慢心を打ち砕いてみせますわ!今の強さに満足していては万が一の時に殺されてしまいますもの。

「わたくしの自信が過ぎたものかどうかはわたくしに勝ってからいってくださいまし!」

『先手は譲ろう。さぁ来い!』

「わたくしを前にしてその余裕、すぐに後悔することになりますわよ。まぁ、譲っていただけるなら遠慮なく行かせていただきますけれっ……ど!」

 やっぱりですわ。わたくしの速度に全く反応出来ていませんわね。このままわたくしが攻めていては学ぶまもなく終わってしまいますし、軽く一当てして一度下がって構え直してもらいましょうか。

「足元がお留守ですわよ!」

『な!』

「お父様、今目の前にいるのは剣を振り始めてすぐの幼子でも教え導くべき格下でもありませんわ。舐めてかかっていると、今度こそ一瞬で終わりますわよ。お父様、今度こそ全力を出してくださいますわね?」

 そう言ってわたくしは殺気を少し混ぜた威圧をお父様に軽く当てる。この訓練所を使っている騎士たちがいますし余波で影響が出ては申し訳ないですもの。

 でも、強力な威圧を放ってくる魔物がいないとも限らないですし訓練がてら今強めの威圧をぶつけるのもありなのではないかしら。侯爵家の直属騎士の方たちですし、やるとしてもお父様への事前通達をするのが筋ですわね。

 それとうっかりやりすぎないように気を付けつつお父様の攻めを丁寧に受けて剛剣の技を盗むしかないですわね。これがまた難しいんですの。お父様の攻撃を受け流したあとに癖で攻撃しそうにかるんですもの。気を抜くとすぐ癖が出ますわね。余計なことを考えているせいでしょうか。

『降参だ。』

 あら、もうおしまいですの?

「わたくしの勝ちで、よろしいのですわよね?」

『あぁ、片手間で相手されている自覚はある。悔しいがこれが今の俺の実力ってことか。あの威圧で勝てないだろうことはわかっていたがまさか攻撃を当てることすらできないとはな。当主としても父親としても不甲斐ない限りだ。』

 やっぱり勝負を決める上で最も重要な要素は速さですわね。速さに差があれば攻撃を当てることも、躱すことも出来ないですもの。相手より遅ければ勝てない相手から逃げて生き延びることもできませんわ。

 速さ。これがないと早死するだけですわね。

「お父様、戦いにおいて彼我の実力差を判断する一番の方法は速さを比べることですわ。それくらい速さは大切ですの。速ければ自分に攻撃は当たらないですし相手にはより多くの攻撃を当てることができますもの。勝負の舞台に上がるためにはまずわたくの攻撃に反応できるようになってもらいませんと。」

『クッ…………アビー、お前はそれだけの力を持ちながらなぜまだ上を目指すのだ。お前は何と戦おうとしている。』

 やり直しのことを話すなら今しかないですわね。今を逃せば戯言と一蹴されてしまいかねませんし。

「わたくしが狩ろうとしている相手は……禍神ですわ。」

『ま、禍神……だと!?』

 さすがは王国の剣。わたくしもあの戦いの直前の遺跡調査の時に石板に記載されているのを見て初めて存在を知った禍神をそれより遥かに早いこの段階で知っているなんて…

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